NOZOKIMI LAB

最新データと現地調査で “大地を測る”ゼミ

最先端の衛星データや統計データ等を積極的に取り入れながら研究し、
現地調査で自主性を育んでいる田中先生が掲げる「大地を測る」ゼミの魅力とは——。

田中 靖 先生

青森県八戸市生まれ。駒澤大学文学部地理学科卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校地球惑星科学科客員研究員等を経て、現在、駒澤大学文学部地理学科教授。主な著書に『地形の辞典』(共著・朝倉書店)、『自然地理学事典』(共著・朝倉書店)等。

岡島 光 さん

文学部地理学科3年。田中ゼミ、ゼミ生。「建設・都市インフラ・地図業界等、このゼミで学んだことを生かした就職をしたいです」

原 諒太 さん

文学部地理学科3年。田中ゼミ、ゼミ生。「将来は教員になって、地震のリアルな惨状や被害等、現地で学んだことを伝えていきたい」

地球上を色々な視点で測る楽しさ

インタビュアー
田中先生、ゼミ生の皆さん、今日はよろしくお願いします!早速ですが、先生のご専門を教えてください。
田中 靖 先生
よろしくお願いします。私の研究テーマは一言でいうと「大地を測る」こと。たとえば、どのくらい雨がふったら、どこがどのくらい危険かを知るための数値計算や、その計算に必要なデータや地図を作る方法に関する分野を専門領域にしています。
インタビュアー
それは、たとえば昨年起こった西日本豪雨の土砂災害等にも関連することでしょうか。
田中 靖 先生
大いに関係にあります。実際、西日本豪雨に関わる仕事もしています。ただ、ゼミでは、もっと広くとらえ、地球上を色々な視点から測っています。
インタビュアー
壮大ですね!
田中 靖 先生
その中心となるのがGISと呼ばれる地理情報システム。現地での測量データはもちろん、統計データや最新の人工衛星から取得されたデータ等、色々なデータをGIS上で重ね合わせ、その関係を自然地理学的な視点から検討しています。
インタビュアー
様々なデータを使用するのですね。
田中 靖 先生
そういったデータを使って「大地を測る」ところから景観を観察するのがこのゼミです。専門科目の講義としては、人工衛星や航空機等から地球表面付近を観測する技術である「リモートセンシング」や「測量学」など、地理学科で取得できる資格に関連した科目を多く担当しています。
インタビュアー
地理学科は、先生ごとに現地調査実習を中心に組み立てられる授業のことをゼミと呼んでいると聞きましたが、どういうことでしょうか?
田中 靖 先生
地理学科は、たとえば自然分野であれば地形や気候、水など先生によって専門領域が異なります。そこで3年次の「地域環境調査法」を履修する時に学科の教員・学生全員を集めて、そこで先生が一人ずつ「今年の私の研究室ではここでこんな調査・研究をする予定です」と提案するんです。
インタビュアー
そこから学生がそれぞれ興味のある研究テーマを選ぶ。
田中 靖 先生
そう。その研究室の単位をゼミと呼んでいます。
インタビュアー
なるほど。たとえば田中先生のゼミではどういった研究テーマがありますか?
田中 靖 先生
昨年度は「2016年熊本地震の検証」というテーマでゼミを行いました。
インタビュアー
具体的にどういったことを行うのでしょうか?
田中 靖 先生
まず、前期は座学。論文の精読にはじまり、班に分かれて調査計画の立案やコンピュータを用いた地図の作成、基本的な調査方法の習得を行います。
インタビュアー
コンピュータで地図まで作成するとは本格的ですね。
田中 靖 先生
それをもとに、後期に入って3泊4日で現地調査をしました。その後は、班別に調査結果のまとめ・発表を行い、最後は一冊の報告書にまとめました。
インタビュアー
事前学習から現地調査まで充実した内容ですね!

現地を調査してこそ分かるリアルな現状

インタビュアー
では、岡島さんの班ではどういったテーマで現地調査をしましたか?
岡島 光 さん
2016年の熊本地震で新しい活断層らしきものが見つかり、その活断層が地表面に割れ目を引き起こしたのではないかという論文を読み、それが本当かを検証しました。
インタビュアー
実際にどういった調査なのでしょうか?
岡島 光 さん
リモートセンシングで、人工衛星から照射したマイクロ波の反射波のデータを用いて、地震前後の地表面の変動の様子を検討することができる干渉SARという方法があります。そのデータから注目すべき変化があった場所を自分たちなりに予想して、注目した場所周辺をひたすら歩き回って調査をしました。
インタビュアー
すごく本格的ですね。
岡島 光 さん
実際歩いてみると、住宅地なので変化がはっきり分からなかったです。
田中 靖 先生
その「新しい断層として認められるか」は研究の最前線でも議論されていること。そこを、自分たちで衛星画像を見て、解釈して、現場で歩いて検証するというのが彼女たちの研究テーマなんです。
インタビュアー
最前線の研究に繋がっている調査というのがすごいと思います。
田中 靖 先生
ただ歩いても、数センチ隆起しているとかは多分、分からない。でもそういう視点を持って現地で実際に見れば分かることがあるかもしれないし、少なくとも考えながら歩くことができる。それが重要なんです。
インタビュアー
体感するのが大事なんですね。岡島さんはどういう気付きを得ましたか?
岡島 光 さん
事前に調べて地図を作成していったことで、実際に予想していた地形変化があったりするところが実感できたので面白かったです!
インタビュアー
では、原さんの班はどういった現地調査をしましたか?
原 諒太 さん
熊本地震で被害を受けた益城町の、被害集中地域の生成要因を研究テーマに現地調査しました。事前に論文やグーグルアース等で当時の被害状況を確認して、被害があった場所は地図に印を付けて、惣領という街の一帯を歩きました。
インタビュアー
現地で歩いてどうでしたか?
原 諒太 さん
未だに壊れている家があったり、逆に家があったところが何もなくて更地になっていたり、地図にはない「現場」の状況が分かりました。その中で、地理の言葉で「後背湿地」という地盤がよくない場所に被害が集中していました。それだけが原因ではないと思いますが。
インタビュアー
現地に行くと色々なことが見えてくるのですね。
原 諒太 さん
今は東京ではあまり報道されていませんが、現地に行ったら2年経っているのに、道路や家、川の堤防等が修復されていなかったり、仮設住宅にもまだたくさんの方が暮らしていたり、リアルな現状に驚きましたし、印象深かったです。
岡島 光 さん
事前に地形図などいろいろな地図やデータをと見比べて地図に起こし、現地に行って原因を探る調査は、探検のような要素もあって充実感があるんです。

「駒大の地理」というブランドが専門職で活躍

インタビュアー
ゼミ生同士はどんな雰囲気ですか?
田中 靖 先生
そうとう仲良いですよ。
原 諒太 さん
普段から班のメンバーと食事に行ったり、発表に向けてゼミではない時間も集まったりわいわいやっています。
インタビュアー
先生がそういう雰囲気作りをされているのですか?
田中 靖 先生
そういう事は考えすぎないようにしています。人対人のことなので、ゼミのやり方も毎年メンバーの性格を見て変えるようにしていますね。この学年はやる気が全面に出ていたので特になにもしていない(笑)
インタビュアー
それは素晴らしいですね。
田中 靖 先生
むしろ考えるのは最初に学生に紹介する論文です。研究がスタートする時にまず手本にする論文は大事なので、現地調査の時に分かりやすいものや、新しい研究成果が含まれているものを選ぶようにしています。
インタビュアー
お二人から見て田中ゼミの魅力は何ですか?
原 諒太 さん
先生が優しくて、間違ったところも細かく指摘してくれるので学びやすいです。あと、1、2年生までは広く浅くでしたが、ゼミに入って地震のことやリモートセンシングといった深いところまで学ぶことができて楽しいです。
岡島 光 さん
そう、3年生になって実際に先生がどんな研究をされているのか、身近になってより専門的なことが知れるようになりました。
インタビュアー
深く学べるとより興味が出てきますよね。
田中 靖 先生
私も学生が伸びていくのを間近で見ているのは楽しいですよ。ゼミに入った頃は、高校生の頃の教科書を読む時のように文献に書いていることを全部信じたりしているんですが、自分で研究して現地に行くと「考える」という自主性が生まれる。その後、学生の書いたレポートを読んだり発表を聞いたりしていると、理解の度合いが変わり、深みが増してくるのがよく分かるので、ゼミは「学びが育つ場」だと実感しています。
インタビュアー
先生も楽しんでいるのですね!そうやって成長した後、どういった道に進む方が多いのでしょうか?
田中 靖 先生
年にもよるけど、例年3割強くらいの学生が、建設系の会社やコンサルタント、地図業界や測量業界、交通・運輸関係、不動産関係、公務員・教員など、ゼミでの学びと密接に関連する業界に就職します。大学院に進学してもっと学問を深めようとする人も毎年数名以上います。
インタビュアー
専門性を生かした就職・進学が多いのですね。地理や地図は地球上で暮らしている人すべてに関わるので、意義深い仕事だと思います。
田中 靖 先生
うちのOBには、ハザードマップなど色々な地図の作成に携わっている人がたくさんいます。教育現場で「地理の先生」として活躍している人はもちろん、名のある企業に就職して頑張っているOBも少なくありません。そもそも、学生数やこれまでの卒業生数で見た時に日本最大規模の地理学科なので、いわゆる「業界」に行くと「駒澤の地理出身」という一大派閥(笑)があるという話はよく聞きますね。
インタビュアー
それはすごい!
原 諒太 さん
自分もそうなれるように頑張ります!

取材時期:2018年11月

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