兼村 栄哲先生
専門はマーケティング論、流通論、企業間関係論。特に生産者と商業者との流通と、その企業間関係の変遷を研究してきた。授業では、マーケティングの基礎となる概念や理論をわかりやすく解説する「マーケティング論」を担当。学生の興味をくすぐり、経営学の世界への架け橋となっている。「マーケティング研究」ゼミでは、学びの段階によって演習I、II、IIIの3グループに分かれ、それぞれ20名前後の学生とさらに深く学んでいる。
好奇心を誘導!?
身近に潜むマーケティング
兼村先生、本日はよろしくお願いいたします!
はい、よろしくお願いします。
今回のテーマは、「好奇心の正体」です。
好奇心とは、未知のことに興味を持ち、探究しようとする心 のことですが、実は私の専門とするマーケティングとも密接な関係にあります。たとえば、コンビニエンスストアにも、利用者の好奇心を導くさまざまな仕掛けがあるんです。
え、コンビニに?
コンビニの陳列棚は、床から70~140cmの高さに人気のある商品が集中しているでしょう?消費者の目に留まりやすいこの場所は、売れ筋商品が並ぶため、専門用語で「ゴールデンゾーン」と呼ばれています。
わかりやすいネーミングですね。
そして消費者は、目の前の陳列棚をZの動きで見ていきます。上段の左端から右端までを眺めたあとに、左斜め下に視線を移し、下段の棚を左端から右端まで眺めるという習性があります。
言われてみると、たしかにそのように視線を移動しています。
私たちはこのことを「Zの法則」と呼んでいます。しかし、コンビニの利用者の多くは5分以内で買い物を済ます傾向にあるため、Zの法則で商品を見始めても、途中でやめてしまうことがほとんどです。
目的の商品を購入したらすぐに店を出る人が大半でしょうね。
このような特徴を考慮して、コンビニ側は、ゴールデンゾーンの左端に特に売りたい商品を陳列しています。好奇心とマーケティングの関わりがよくわかるでしょう?
知らないうちに好奇心を誘導されていたわけですね! ほかにもコンビニにマーケティングに関わる仕掛けはあるのでしょうか。
まだまだありますよ。店舗の設計もそうです。日本人に多い右利きの人は、左手でカゴを持って右手で商品を取りますよね? となると、反時計回りに店内を回遊した方が買い物がしやすい。だから、そのような設計になっている店舗が多い。
う~ん、気づきませんでした。
コンビニエンスストアには長年蓄積してきたデータがあり、約3,000種類の商品をどのようにレイアウトするのかがきっちり決まっています。つまり、消費者は好奇心を誘導されているわけです。
100年を越える
心理プロセスと好奇心への探究
このような研究は、いつから始まったのでしょうか。
マーケティングの研究はおよそ100年前から始まっていて、1920年代には、アメリカのサミュエル・ローランド・ホールという人が、「AIDMA(アイドマ)の法則」という有名な理論を発表しました。
具体的な内容について教えてください。
AIDMAは、Attention(注目する)、Interest(関心を抱く)、Desire(欲望する)、Memory(記憶する)、Action(行動する)の頭文字を取った略語です。商品の購入に至るまでの消費者の心理プロセスを表現しています。
AIDMAの購買心理過程をベースにすると、マーケティングのための広告がもっとも効果を発揮するのはどの段階になりますか。
たとえばテレビCMは、注目させたり関心を持たせたりするのには大きな効果がありますが、欲しいと思わせたり記憶させたりするのには弱い。初めのAの段階に一番効果があると言えるでしょう。もちろん、例外もありますけどね。
テレビCMといえば、商品のブランディング方法もさまざまですね。
そうですね。国によっても方法が異なっていて、アメリカでは企業名を使用したブランドは、あまりありません。テレビCMでも、企業名を明示することが少ないでしょう。なぜかというと、日本の企業よりも商品の数が膨大なので、企業名を使用したブランドがコケると、その企業のすべての商品が売れなくなるからです。
シビアですね。日本のCMはいかがですか。
どちらかといえば企業名を重視しますね。でも、海外では商品名を前面に押し出し、企業名を薄くPRするだけのCMも増えてきています。国内でもネスレやP&Gのような外国から来た企業のCMなどはそういう傾向にあって、商品名をプッシュしているはずです。
こうして説明を聞くと、驚くことばかりです!
CMも含め、企業は地道な努力をして効果的なマーケティングを研究しています。だからね、本当はこうやっておいしいところだけを摘まんで教えるのは、よろしくないのかもしれません(笑)。
生活の中の些細な疑問が好奇心に!
普段何気なく生活していると、先生が説明されたようなことに気づく機会はとても少ないと思います。大学生が世の中への好奇心を持つための良いアイデアはありますか。
何でも当たり前に受け入れるのではなく、何気ないことに疑問を持つことが大切だと思います。「バーコードはどうして13桁なの?」とか、「カレールーの箱のブランド名はどうしてこの位置なの?」とか、何でもいいんですけどね。
身近なこと、興味のあることを掘り下げていくと、何かしら疑問が見つかりそうです。
今の日本ではK-POPがブームですけど、うちのゼミ生のなかには、K-POPとJ-POPのコンテンツマーケティングの比較を卒論で書いた子もいました。その子のモチベーションもやはり、「なぜだろう?」という素朴な問いだと思います。
疑問を持つことが、イコール好奇心につながる、と。
ただし、疑問を持つためにはある程度の知識が必要です。中学、高校で習得した知識がなければ、物事に対して疑問を持つことは難しい。逆に最低限の知識があれば、創造的な疑問を抱けるようになるはずです。
高校までにしっかりと知識を蓄えておけば、大学での勉強も充実したものになりそうですね。
基本的に、高校では答えのある問題に取り組むことが多いと思います。しかし、大学に入ると、自分で問題を見つけ出し、それを自分なりに解決することが大切になります。
やはり、自主性は大切でしょうか。
そうですね。詰め込んだ知識はすぐに忘れてしまうものです。常に「なんでだろう?」と疑問を持ち、自分で問題を探し出し、「ああ、そうなんだ!」と体感する。体感することで、やっと好奇心が満たされるのではないでしょうか。
今日のお話で、好奇心の大切さがよくわかりました!
学生に疑問を抱く力を身に付けてほしいので、私は普段の講義でも話に「嘘」を混ぜています(笑)。嘘を見抜くためには疑問を抱く必要があり、疑問は好奇心の源になります。普段から好奇心を持って大学生活を過ごしてほしいですね!