徳野 崇行先生
宮城県生まれ。駒澤大学大学院 人文科学研究科 仏教学専攻 博士後期課程 博士課程修了 博士(仏教学)。研究テーマは日本の民俗宗教。主な著書に『日本禅宗における追善供養の展開』(国書刊行会刊)「曹洞宗における「食」と修行ー僧堂飯台、浄人、臘八小参、「精進料理」をめぐってー」(日本宗教学会)、「近世における禅宗行政書の出版についてー施餓鬼・観音懺法を中心にー」(駒澤大学仏教学部刊)など
西川 淳元さん
仏教学部仏教学科4年。徳野ゼミ、ゼミ生。実家の寺の「烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)」が研究テーマ。
上村 萌衣さん
仏教学部仏教学科4年。徳野ゼミ、ゼミ生。高校時代から民俗学に興味を持ち、徳野先生の話のおもしろさに惹かれて徳野ゼミを専攻。
五感を通して仏教を体験し
知識を深める
徳野先生、ゼミ生のみなさん、本日はゼミについてうかがえればと思います。早速なのですが、徳野先生の専攻を教えてください。
宜しくお願いします。私の専攻は宗教学で、仏教だけでなくイスラム教やキリスト教などのさまざまな宗教を比較して研究する学問分野です。その中で一般の人々がどんな宗教を信仰していて、儀礼や実践をしているのかを研究する「フォークレリジョン」を専門にしています。
ゼミはどういったテーマなんですか?
日本の民俗宗教を中心に、生活にとけ込んだ仏教や宗教の姿を歴史と現状の両面から研究しています。
具体的にどういう内容なのですか?
一般の生活に根付いた仏教には長い歴史があり、二つのアプローチで研究しています。まずひとつは、中世の絵巻資料や近世の出版物などの文献や資料を通して仏教を歴史的に考えるアプローチ。もうひとつは、いま現在行われている宗教にフォーカスをあてて、仏教を信仰している人々がどんなことをしているのか、インタビューや現場に訪れて考察するアプローチです。
現場というとやはりお寺が多いのでしょうか?
仏教に関連する宗教施設はもちろんですが、私は民俗宗教を専門にしているので、それだけではありません。たとえば東北の「神がかり」をやっている現場に学生を連れていったり。
「神がかり」は、霊が人にのりうつる現象ですよね?
そう。山形県米沢市で、霊を招き寄せてその言葉を人に伝える「口寄せ」をやっている宗教者を調査していたりもするので、その年中行事をゼミのみんなで見学に行きました。
それは興味深いですね。
実際の現場では、たまたま私の先祖様がおりてきました。僕が呼び出されて「口寄せ」されたご先祖様と問答する姿を、学生が後ろでぽかーんとみていたり。宗教学者が宗教現象に巻き込まれる、業界あるあるです(笑)
おもしろい!
ゼミ生も一人代表者が呼び出されて「お前はまだまだ勉強が足らん!」とご先祖様に怒られていました(笑)
すごい体験ですね。西川さんが一番印象に残っているのは?
昨年9月に夏合宿で調査した「富士山信仰」です。
どういった信仰なのですか?
活火山である富士山でマグマがでたときに大木が倒れて、その部分だけが洞窟として残っている熔岩樹型というのが裾野あたりに数多くあるんです。それが母の胎内に似ているので、それがご神体として祀られている神社があって、富士山に登る前にそこを通るのが浄めになると言われていて。
登る前に一旦死んで、その胎内から「生まれ浄まる」という信仰で、それを実際に学生に体験してもらいました。
浄まりましたか?
実際行ってみると、洞窟なので冷たい空気とか壁の手触りとかが体感できて、通ることで浄まるという気持ちが分かりました。
そういう風に、学生に実体験を通して宗教現象を考えてもらうことを大事にしています。五感を通して学ぶと、その後に文献や資料を読むとより理解が深まる。なので、できるだけ現場には足を運ぶようにしていますね。
濃い現場ばかりですね。地方が多いのでしょうか?
いえ、基本的には東京近郊が中心です。たとえば代々木上原にあるトルコのモスクでイスラムの祈りを見た後、開運招福や商売繁盛を願う日本の「酉の市」に行って、その二つの信仰を比較しながら一つの繋がりで考えたり。
東京は江戸情緒があり、歴史的な寺社仏閣や現在も続く祭礼が残っています。そういった江戸の文化や祭礼、儀礼に気軽にアクセスして参加しやすいのは、世田谷にある駒大ならではですね。
エンタメ施設に講談、イベント・・・仏教の今を調査
では、いま現在、生活にとけ込んでいる宗教の現場とはどういったものがあるのですか?
たとえば昨年8月に行った東京ビックサイトで行われている「エンディング産業展」
それは業者の見本市ですよね・・・・・・?
そう、宗教者のブースがありますが、業者が主体です。もともと日本の仏教は葬儀のお布施の収入が寺院経済を支えていたり、葬祭仏教と言われるほど死者の弔いと密接な繋がりがあるんです。そういった葬祭の在り方が現代社会で変わってきていて、お坊さんでもない業者が新しい葬祭を生み出している現状を調査する目的で行きました。
少し前にロボットの「ペッパー導師」が話題になりましたよね。
昨年も出ていました。あれも医療系のプラスチック加工メーカーのサービスのひとつ。メディアで取り上げられて批判も受けましたが、それも「今の仏教の形」の一側面が学べる新しい提案です。他にも変わったものでは「宇宙葬」や「バルーン葬」などがありました。
私は池袋のナンジャタウンの『ナンジャ怨霊フェス』がおもしろかったです。
テーマパークにも行くんですか!
いま、昔からある怪談の『口裂け女』の現代版のような新しい創作怪談がインターネットベースで生み出されていて、それらを使って「恐怖が消費される社会」という話が学会発表でもあるんです。その一事例として取り入れられているお化け屋敷で「恐怖」の話材を研究し、社会学的視点からどういう風な恐怖のコンテンツが利用されているのか調査する目的で行ったのですが・・・・・・。
あまりにも怖すぎて、「入れません」という男子学生が出てしまいまして(笑)
参与観察が大事なのに拒否されました(笑)
(笑)上村さんは他に印象に残っているゼミはありますか?
『渋谷らくご』で観た神田松之丞(まつのじょう)さんの講談が印象深かったです。
講談と仏教にどういった関係があるんですか?
落語や講談は怪談、奇談をモデルにしたものが多く、そのルーツを辿ると、寺院の布教戦略の一環で、お坊さんの霊験あらかたさを伝えるため、お坊さんが幽霊を成仏させる物語が創られたという背景があるんです。
講談は初めてきいたのですが、迫力がすごかったです!なにより伝統芸能を生で観られたのが貴重な体験でした。
本当に多彩な現場に行っているんですね!
月に1回『ブラタモリ』をしているとイメージすれば分かりやすいです(笑)
ゼミ生の親からも「行きたい」って声が多々あります(笑)
生きる意味から実用的なスキルまで多彩な学び
ゼミにはどういった学生さんが多いですか?
基本的には真面目で協調性があって、課外実習で社会とアクセスしているので、みんな節度がありますね。あと、私がサブカルチャー好きというのもあって、漫画やアニメ好きが多い。
お話を聞いているとみんな楽しんでそうな印象を受けます。
そうですね。課外実習は費用も自己負担で、成績に加味しない自由参加なんですが、参加率がすごく高いので、自ら「楽しみながら学ぶ」姿勢の学生が揃っていると思います。
私は民俗学をやりたくて、先生の授業のおもしろさに惹かれてこのゼミに入りました。ゼミ紹介のときに先輩たちが米沢に行っている写真を見て「おもしろそう!」と思って。
西川さんがこのゼミに入られた決め手はなんですか?
やっぱり課外実習が他のゼミに比べるとかなり多いので、そこに魅力を感じました。ゼミ生同士もゆるく仲が良いので楽しいです。
研究のテーマは何ですか?
実家の寺の「烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)」という、仏教版の「トイレの神様」です。それに関するお祭りを実家でやっているので、父である住職にインタビューするフィールドワークと文献資料で研究しています。
なるほど。ゼミ生のみなさん実家がお寺だったりするのですか?
いえ、そういう訳ではないですね。宗教学は価値観を扱う学問ですので、生きる意味とか大きな価値を考えたときに、主観的な意見だけでなく、一つひとつ客観的に見る視点と関連してくるので、そういうところの勉強は万人に役立つと思います。
それは社会と関わったときに、より大きな意味を持ちそうですね。
社会との関わりでいうと、社会人としてのスキルアップの授業もあって、助かっています。
どういった内容なのですか?
まったく仏教とは関係ないのですが、一言でいうとパソコン教室です。情報収集、整理、発信が卒論を書く上で重要になってきますし、それは会社に入っても必要なスキル。なので、ショートカットキーの使い方やパワーポイントでのプレゼン資料のつくり方、メールの書き方など、実践的なスキルアップの授業を半期だけサブゼミとして行っています。
それは実用的ですね!
学生って学生間で差を感じたときに奮起するモチベーションが高くなるので、そういう状況をつくることを意識していますね。
では、最後に徳野先生にとってゼミとはどういう場ですか?
宗教を現場で感じる場。現場百編ではないですけど、そこで研究の方法だったり視点を、一人ではなくみんなで考えながら、宗教というものに向き合える。そういう場所だと思います。
一人で行けないようなところに行けたり、同じ志向の人たちと共に学んで、先生との距離も近く、解説や話もおもしろい。このゼミは本当に「楽しい」しかないです。
取材時期:2018年10月