NOZOKIMI LAB

生活と隣り合わせの刑法が学べるゼミ

刑事法と生活の密接な関わりを通じ、社会の仕組みを理解してほしいと願う原口先生。熱心なゼミ生のなかでも「特に真面目」と太鼓判を押す3名とともに、ゼミの内容を語っていただきました。

原口伸夫先生

埼玉県出身。中央大学法学部法律学科卒業、中央大学大学院法学研究科刑事法専攻博士課程満期退学。中央大学法学部兼任講師、桐蔭横浜大学法学部専任講師を経て、2014年に駒澤大学法学部教授に就任。著書に『未遂犯論の諸問題』(成文堂)がある。

水上愛理さん

法学部法律学科フレックスB 3年。「原口ゼミは、先生と学生との垣根が低く、質問や相談を気軽にできる環境が整っています」

菅原萌生さん

法学部法律学科フレックスB 3年。「1、2年生のときに原口先生の授業を受け、刑法をより深く学びたいと思い原口ゼミを専攻しました」

森住彩乃さん

法学部法律学科フレックスB 3年。「原口ゼミで学んでいると、普段の生活が法律と結びついていることを深く理解できます」

刑法は我々の普段の生活と別世界の話ではない

インタビュアー
本日はゼミの活動についていろいろ伺えればと思います。
原口伸夫先生
はい、よろしくお願いします。
インタビュアー
まずは先生のご専門を教えてください。
原口伸夫先生
私の専門は刑法、つまり、国家が個人に対して禁止事項を定め、その違反に対して刑罰を科す法律です。なかでも未遂犯の研究がメインテーマです。
インタビュアー
未遂犯について、詳しく教えてください。
原口伸夫先生
犯罪を思いついて実行に移した場合、成功する人もいれば失敗する人もいます。この二者において、未遂犯に該当するのは後者です。やり損ねたら犯罪にならない、というのではおかしいでしょう。刑法は、犯罪の実行に着手したら、既遂(きすい)に至らなかったとしても処罰することがあります。
インタビュアー
報道などでよく聞く「〇〇未遂」などのケースですね。
原口伸夫先生
はい。最近では、マスメディアで「共謀罪」と呼ばれる「組織的犯罪処罰法改正案」(「テロ等準備罪」法案)」)も、未完成犯罪という観点で私の研究テーマの範疇(はんちゅう)に入ります。
インタビュアー
2017年7月に施行された「共謀罪」は、犯罪を計画段階で処罰するという内容ですが、誰が何をしたら処罰されるのかがはっきりしておらず、権力側によって恣意的に濫用されるのではないかという点が懸念されています。社会における監視が強化されるという点においても、私たちの生活に関わってきそうですね。
原口伸夫先生
そう、けっして別世界の話ではない。刑法と言うと難解なイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際には普段の生活と深く関わっています。児童虐待や家庭内暴力など家庭内の出来事が「犯罪」として現れることもあります。恋愛感情のもつれが「ストーカー」ということにつながることもあるでしょう。ネットへの書き込みが「名誉毀損」になるケース、バイト先での悪ふざけでの動画投稿が「業務妨害」に問われるケースも起こっています。犯罪は社会の歪みが引き起こすという面もあり、いつ自分の身に降りかかってきてもおかしくありません。
インタビュアー
なるほど。ゼミでは今おっしゃったような現代社会と刑事法の関わりが学べるのでしょうか。
原口伸夫先生
そうですね。私のゼミでは、ゼミ生がグループごとに興味のある刑事法関係のテーマを決め、調べ、報告し、みんなで議論するというオーソドックスな内容を採用しています。方針としては、比較的近年の問題を、実際の生活との関係を意識しつつ考えるよう指導しています。同時代のニュースをチェックしたり、あるいは法律の解釈について調べたりと、地道な作業が大切になってきますね。

オープンな議論で多角的な視点 が獲得できる

インタビュアー
グループごとに調査をするということですが、ゼミ生のみなさんは、どのようなテーマを研究しているのですか。
原口伸夫先生
彼女たち3人は「松山刑務所脱走事件についての考察」を発表してくれました。同時期に大阪府警富田林署からの逃走事件もありましたが、現在進行形の事件をフォローしつつ、良く調べているなあと感心しましたね。 他には、「特殊詐欺など詐欺罪の成立要件の検討」というテーマで、成人式の振袖レンタルで詐欺事件を起こした『はれのひ』を絡めて発表してくれたグループもいました。
インタビュアー
調査はどのようにするのですか。
森住彩乃さん
ネットニュース、新聞記事、文献などを参照して調べます。
菅原萌生さん
図書館にグループ読書室があって、複数人でパソコンを使いながら調べ物ができるんです。駒澤大学は勉強するための環境が整っているので、助かっていますね。
水上愛理さん
一年生のときに、全員が図書館の利用法講座を受講するのですが、そこでパソコンを使った判例の検索方法などを学んだのが役立っています。
インタビュアー
ゼミにおける勉強を通じて得られたものは?
菅原萌生さん
もともと刑法の講義を受講していたこともあり、今まで教わってきたことをゼミでさらに深く学べているという実感があります。
水上愛理さん
発表後に質疑応答があるのですが、その際に事件に対するさまざまな解釈を学べるのが勉強になります。まったく想定していなかった質問がくると、いろいろな考え方があるんだな、と素直に思います。
森住彩乃さん
シンプルに、刑法の仕組みを知ることがおもしろいです。あとは、自分と違う考え方をする人の意見を聞くことで、視野が広がりました。
原口伸夫先生
発表は、上手くいくこともあればそうでないこともあると思います。いずれ社会に出たときに、プレゼンテーションなどに活かしてもらえると嬉しいですね。
インタビュアー
原口先生はみなさんにとってはどんな存在ですか。
水上愛理さん
優しい方です。発表に関するフォローやアドバイスはもちろん、進路の相談にも親身に乗ってくれます。
菅原萌生さん
とにかく優しいですね。信頼しています。
森住彩乃さん
威圧感がなく、親しみやすいです。私たちの意見を絶対に否定せず、そのうえでさまざまな考え方を示してくれます。
原口伸夫先生
3人はとても真面目です。他のゼミ生もみんなしっかりしているから、基本的には心配していません。ただ、少しのんびりしている子もいるので、たまに少しだけせっついたりもしますけど(笑)。
今年はゼミの発表を論文集としてまとめる予定なのですが、みんなが熱心なので、良い内容になると思います。

すぐに役に立つ 勉強だけが学問 なわけではない

インタビュアー
ゼミで刑法を学ぶことによって、普段の生活や考え方などに変化はありましたか。
森住彩乃さん
以前に比べて、論理的な思考ができるようになりました。法学部の友だちと話すのとそれ以外の友だちと話すのでは、話の広がり方が違います。
水上愛理さん
ニュースの見方が変わったかな。刑事事件の話題が出てくるとアンテナに引っかかるし、事件の背景と自分との関わりを考えたりします。
菅原萌生さん
私も水上さんと同じです。「そんな事件があったんだ」で終わるのではなく、一つの事件について「社会とどんな関わりがあるのかな?」と、深く考えるようになりました。
原口伸夫先生
3人のような感想は嬉しいですね。今は「就職に有利になるような役に立つ勉強をしたい」という志向が強くなってきています。自分の将来のことを真剣に考え、大学での学びをそれに結びつけて行こうとすることは大変よいことだと思います。しかし、すぐに役立つこと、就職試験に直結することだけが大学で学ぶべきことだ、という方向に過度に行き過ぎるのは賛成できません。わたしたちの人生にとって、文学や美術が不要なのかといえば、決してそうではないでしょう。法学も同様です。大学で学ぶべきことのひとつとして、人としての視野を広げることもたいへん大切なことだと思っています。
インタビュアー
ビジネスに役立つ職業教育だけが学問ではない、ということですね。
原口伸夫先生
もちろん、公務員試験に役立ったとか、それはそれでたいへん結構なことだと思います。原口ゼミでも、先輩は毎年警察官採用試験に合格し、警察官として活躍しています。国税専門官、特別区・地方公務員採用試験に合格した先輩もいます。ただ、それだけではなく、ゼミを通じて、多様な物事の見方や他者の意見に触れることの大切さも伝えていきたいです。
インタビュアー
先生はゼミ生のみなさんに、どのようなことを重点的に学んでほしいですか。
原口伸夫先生
正直な話をすれば、法学部の学生がみんな法律の専門家になるわけではありません。専門家にならなくても、法律を通して社会の仕組みを理解することで、人としての幅が広がるのではないかと思います。

取材時期:2018年11月

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