平井幸弘先生
長崎県長崎市出身。東京大学理学部を卒業後、同大学大学院理学研究科地理学専攻博士課程を修了。2006年より現職。主な著書に『湖の環境学』、『水辺の環境ガイド-歩く・読む・調べる-』、『ベトナム・フエ ラグーンをめぐる環境誌-気候変動・エビ養殖・ツーリズム-』など。
ベトナムの環境問題に取り組んで20年
地震予知などの地球物理学を専攻するつもりが、大学1年のときに受けた教養科目がきっかけで、地理学に転じたという平井先生。現在は、水辺の地形と環境問題をテーマに、国内はもとよりベトナムやタイをフィールドに研究しています。
1年滞在したベトナムで購入アートな地図
部屋の扉のそばに飾られているベトナムの地図。よく見ると、くるくると丸められた紙で平野や高地を色分けして描かれています。
「7年前にベトナムに1年滞在して調査研究をしたのですが、そのときにフエという街でお土産に買いました。風景画もあったけど、地理学の専門家ならやっぱり地図でしょ(笑)」
地理学といえば、人口や産物、さらには気象などのイメージもありますが……。
「大学の地理学は高校とは違います。フィールドに行き、そこに暮らす人たちの話を聞いて、その人たちの視点で、人と自然とのかかわりをダイナミックに捉える。ですから、国内のあちこちを巡検(=野外調査)に行くのが、私のゼミの特色ですね」
人との対話を重視する平井流地理学
平井先生によれば、地理学は理系と文系をまたぐ学問なのだとか。
「例えば、地球温暖化によって海面水位が上昇するという問題に対して、いろんなアプローチがあります。コンピュータを使ってシミュレーションするのもそのひとつ。しかし私の場合は、地形の調査を行うと同時に、そこに暮らす人々の活動も調査して適応策を考えるというやり方。つまり、人々の話を聞き取りながら、何が課題かを知り、どうしたらよいのかを一緒に考えていく。そのためには最低1年はその地に滞在して生活体験したい。ベトナムに行ったのはそういう理由からです」
人との対話に重点を置いた平井流地理学。その魅力を伝えるのがこちらの著書。ほんの一部ですが……。
一つひとつに意味がある!これぞ“お宝”
平井先生の話を聞いていると、地理学のイメージがだんだん変わっていきます。2022年から高校では「地理総合」が必修科目になりますが、想像以上に奥の深い学問なのかも……。
「知識を以て科学的にモノを見れば、川の堆積物や打ち上げられた珊瑚(写真右)からも、過去の環境変化や人との関与がわかります。それが地理のおもしろいところ。テレビ番組の『ブラタモリ』のような感じ?(笑)」
こちらの写真にあるものは、平井先生やゼミ生が野外調査などで拾ってきたものですが、まさに“お宝”。ヤマタノオロチ伝説につながる斐伊川の鉄滓(写真左上)や、忍者が使うまきびしの原型となったヒシの実(写真左下)など、一つひとつに意味があります。
「行った先の人に会い、おいしいものを食べ、絶景を見る。足と目、耳と舌で体験するのが地理学。人生を楽しめる学問です!」