川崎 浩太郎 先生
駒澤大学大学院 人文科学研究科 英米文学専攻 博士課程満期退学。駒澤大学 文学部 英米文学科 准教授。19世紀のアメリカ詩を中心として、主に民族や階級、セクシャリティ等の視点から研究している。主な著書に『亡霊のアメリカ文学』 (共著・国文社刊)、『アメリカン・ロードの物語学』 (金星堂刊)等。
田中 秀弥さん
文学部英米文学科4年。川崎ゼミ・ゼミ長。「個人的に研究している批評理論の授業が駒澤には無かったのですが、川崎先生が個人的に相談に乗ってくれたことがゼミを選ぶ決め手になりました」
近藤 彩未さん
文学部英米文学科4年。川崎ゼミ・ゼミ長。「1、2年生の時に川崎先生の授業を受けて、すごく面白くて分かりやすかったので川崎ゼミを専攻しました」
自然とやる気に
なれる空気感があります
川崎先生、ゼミ生の皆さん、今日はゼミについて色々うかがえればと思います。
よろしくお願いします。
まずゼミのテーマについて教えてください。
私は特に19世紀のアメリカ文学が専門なのですが、ゼミでは時代やジャンルにかかわらず、アメリカ文学全般を社会的な背景を絡め、他の文化や表象等とも比較しながら考察しています。
ただ文学作品を研究するだけではないんですね。
いま若者の活字離れが進んでいるので、いきなり作品だけ読ませようとしても敬遠されがちです。アメリカ文学における問題は、我々の社会とも同じ問題を共有しているのだということを知ってもらうために、まずは社会や文化とリンクさせながら学んでもらっています。
具体的にどういった内容でしょうか?
最近の授業だと、例えば「恐怖」の原型。現代の日本人が感じる恐怖は『リング』の「貞子」のようなじわじわするような怖さが主流ですよね。ではアメリカ人の「恐怖」はどういうイメージですか?
『13日の金曜日』のようなスクリーム系でしょうか……?
そう、怨念とかではなく物質的、直接的な暴力によって示される恐怖が多いかもしれないですね。最近のゼミ生のプレゼンでは、現代のホラー映画の原型を19世紀のアメリカ作家、エドガー・アラン・ポーの作品に求めるというのもありました。例えばディズニーランドの『ホーンテッドマンション』にその定型の恐怖パターンが使われていたり、そういったポップカルチャーなどとも合わせて考察しています。
現代社会とも繋がっているんですね。
他にも、たとえばアメリカでよく銃乱射事件とか警察官による暴力が問題になりますよね。
毎年のようにニュースで観ます。
それが例えばLGBTの権利向上や人種問題に関連して起きた事件だったり。そういった事件の根底にはどのような歴史や背景があるのか、アメリカ文学を通して考えています。
なるほど。より深くアメリカ社会を知るきっかけにもなりますね。
ゼミ生はどういった方がいますか?
学科の中でも人気が高いゼミなんですが、先生が男前なので女性は男子の倍います(笑)
いやいや、もともと英米文学科は全体的に女性が多いですから。(笑)
学年によってカラーが違いますが、今年は特にすごく良い雰囲気だと思います。
ゼミで役職をやってる人たちが他の学生をうまく引っ張ってくれているんです。
田中さんはゼミ長として、どう工夫されているんですか?
まず運営側が仲良くなって、それぞれ班に一人は入るようにしています。その人たちが、がんがん発言や意見をして、自然とやる気になる空気感をつくっています。
今はみんな授業が終わっても残って話し込んだりとか、ゼミ生同士ほんとうに仲が良くて、それが全体の良いムードに繋がっていると思います。
ディベートや
英語のプレゼンの失敗から学ぶ
具体的にゼミではどういったことをしていますか?
講義、ゼミ生の英語プレゼン、ディベートをワンセットとして3週間で1つのテーマを取り扱っています。
どういったテーマがあるのでしょうか。
1つの作品の時もあれば、ある時代の文学グループだったり、人種問題等の社会問題も扱います。5つの班に分かれて課題の小説を読んだり、映画を分析して、プレゼンをおこなったりします。
プレゼンはすべて英語なんですか?
英語のパートと日本語のパートがあって、先生から例えば「自然主義文学の代表的な作家と作品を英語で3分間プレゼンしてください」とか。英語の発言をした時の質問は英語で答えています。
自然と英語力が身につきますね!
よく「文学部って社会に出ると役に立たない」と言われることが多いですが、そんなことはありません。プラクティカルな英語のスキルが身につくことは当然として、プレゼンやディスカッションなどを通して、読解力、思考力、表現力を飛躍的に伸ばせるので、ゼミでの活動は就職活動や就職してからの人生においては、大きな糧となります。
なるほど。
プラクティカルな英語はあくまで「手段」であって「目的」ではないと考えています。なんでもいいからしゃべりなさいみたいな風潮がありますが、ここはあくまでも「文学部」なので、言語とはそもそもなんなのか、なぜ英語を勉強する必要があるのか、習得することで何をしたいのかという意識をゼミ生には持ってもらいたいと思っています。目的意識を持つことで、手段としての英語力も必然的に高まります。
使って何をしたいのかということですね。
そう。ですから1、2年生の時に英語力をつけてもらって、3年生以降のゼミという場は実際に使って鍛える場だと思っています。
その中で近藤さんが印象に残っているゼミはなんですか?
1920年代のロスト・ジェネレーションの時代に『グレート・ギャツビー』という作品があって、豪華絢爛な世界に生きた主人公のギャツビーの栄枯盛衰を描いた物語なんですが、その時のディベートが印象に残っています。
レオナルド・ディカプリオが主演で映画化された作品ですね。
そうです。その作品は映画と原作はどちらが優れているのか、2班に分かれて議論したのですが、かなり準備をしたのに、緊張してばーっと喋ってしまって、うまくいかなかったです……。
そんなことなかったですよ! そのディベートはかなり盛り上がって、スポーツを観ているような感じでした。
もともと何かを伝えるのが苦手で……。でも、そうやって失敗する機会を与えてもらっているのは、すごくいい経験だと思います。
それは学生時代の特権だと思います。
就職面接は1回しかチャンスがない状況で、うまく伝わらなかったらそこで終わりますが、ゼミでは失敗してこそ学べる。ですから、とにかく失敗を恐れず何でも言ってもらうようにしていて、最後に厳しいコメントをすることもありますが、そこから学んで本番で成功するようになって欲しいんです。
アメリカ文学を通して、
世界の流れを知る
ゼミでは課外活動も行いますか?
3年次の夏に二泊三日の合宿に行きます。昨年は野尻湖でした。
合宿ではどういったことをするのでしょうか?
卒論のテーマについてのプレゼンテーションや英語スピーチを行います。うちのゼミでは、合宿や懇親会は場所を決めたり予約をしたり企画の内容もすべて学生が決めているんです。
それは珍しいですね。
学生の積極性や自主性を伸ばしたいので。
実際にどう決めているんですか?
運営メンバーを中心に皆で話し合って。うちのゼミは夏休みに留学に行く人が多いので早めに決めて、なるべく全員参加できる日程で組みます。
強制ではないんですが、ほぼ全員参加しますよ!
勉強以外の懇親会とか観光も楽しいですから(笑)
自分たちが楽しいことを自分たちで決めるとなると自然と積極的になれますね。
このゼミに入ったからこそだと思います。研究に関してもみんな意欲的なので、1、2年生の時は英語中心の勉強をしている感じでしたが、ゼミに入って周りに刺激されて、アメリカ文学を含めた文化や歴史を深く理解しようとギアが変わりました。
文学単体ではなく社会や娯楽、アート等も絡めて多角的な視点で学べるので、深く知ることで人生が豊かになると実感しています。
まさに文学部の醍醐味ですね。では川崎先生、そのアメリカ文学そのものの魅力とはズバリなんですか?
ストレートな質問ですね。なかなか一言では答えられないですが……1つの側面として、国力を考えると20世紀は世界的に見てもアメリカの世紀でしたよね。グローバル化の名の下、いい意味でも悪い意味でも世界がアメリカ化したとも言えます。
確かにそうだと思います。
そういった、世界でナンバーワンになり得た国の根元的な思想や社会のしくみだけでなく、その歪みやノイズは必ず文学作品に現れているので、それを発見できる喜びがあります。グローバル化の名の下、世界中がアメリカ化した今、日本を含む今日の世界で問題となっていることの多くはアメリカとも大いに関係がある。たとえば移民受け入れの問題や様々なマイノリティの権利向上など、今の日本社会における課題とも連動しています。そのような意味で、アメリカ文学を通して、様々な視点から現代の社会を批判的に読み取ることができる。
世界の1つの流れが見渡せるんですね! それは面白い。
では、最後に川崎ゼミの魅力を教えてください。
ゼミのテーマ自体が面白いですが、先生の距離の近さが一番の魅力だと思います。いわゆる先生ではなく先輩のような雰囲気で、学生から質問しやすい空気を作ってくださっているので「これ聞いたら恥ずかしいかな」とか躊躇することなく何でも聞けるので、研究が楽しいです!
きちんと向き合って話を聞いてもらえると嬉しいから、それが皆の自信に繋がっているし、自然と意欲的な雰囲気ができていると思います。もう、アメリカ文学に興味がない人にでもこのゼミは進めたいです(笑)
取材時期:2018年11月