学問Q&A

先生が考える日本の優れた文化を教えてください。

経済学部

「文化」は生活の営みの中にこそあり

「文化」と聞けば、多くの人が、歴史や美術の教科書で学んだ豪華絢爛で超絶技巧の芸術品を思い浮かべることでしょう。例外もありますが、それらのほとんどが、公家や武士など、時の権力者がスポンサーとなり、芸術家に命じて作らせたものと言えます。後世の人びとは、作品の素晴らしさに感動し、それらを生み出した先人たちに誇らしさを感じるわけです。

ところで、「文化」とは何かと問われても、多義的で漠然としたイメージしかなく、的確に答えることができないのは私だけではないでしょう。広辞苑には、文化とは「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」という一節があります。この文面からは、抽象的でいかなる解釈も可能な印象を受けますが、例えば、私たちが日々の生活を送るために使用するさまざまな用具も文化を構成する重要な要素であると言えます。

思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし、1889~1961年)は、まさに、名もなき職人らが文字通り「手仕事」でこさえた器や普段使いの道具を「民藝」と名付け、その意義を広く世間に知らしめるために、有志らとともに民芸運動を展開しました。柳の眼には、おそらく、文化とは私たち人間の暮らしの中にこそ存在する、と映ったことでしょう。

もとより、いかなる国の文化にも優劣はありませんが、もし、日本文化の中に優れたものがあるとすれば、このような職人の技と情熱が連綿と受け継がれ、「モノづくり」に長けた国を創り上げたことではないでしょうか。

東京大学駒場キャンパスの近くに柳らが創設した美術館「日本民藝館」があります。いちど訪ねて見られることをおすすめします。国内外を問わず、何とも魅力的な民芸品に出会うことができます。

経済学部: 鄭 章淵(アジア経済論)

おすすめ参考文献

経済発展と民主主義
中村政則(著)岩波書店(刊)

今日の東アジア諸国では、経済発展と政治発展(民主主義の発展)の両立問題が国民的な課題となっています。本書は、この問題について日本の経験を中心に論じたもので、民主主義の大切さについて学ぶことができます。

それでも、日本人は「戦争」を選んだ
加藤陽子(著)新潮文庫(刊)

本書は、日清・日露戦争から第二次世界大戦敗戦までの日本の歴史を「戦争と日本人」いう観点から論じたもので、平和を維持することの大切さがよくわかる文献です。高校生向けの特別講義をまとめた本なので比較的わかりやすいと思います。

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