私の「平成」の学問研究
私が奉職したのは平成2年4月のこと、平成と共に30年近く教育と研究に携わってきた。仏教学部の学生であったとき、中国や日本の禅僧の生き方やことばに興味を持ち、大学院以来、禅僧たちの伝記を研究することに没頭している。丹念な史料調査を経た論文の執筆はもちろん、学部生や大学院生との演習でも多くの禅僧たちの事跡を詳細に調べてきた。難解な仏教語や禅語のほか、地名・寺名や歴史用語など、解読するのに苦労してきた日々が懐かしい。
ところが、しだいにパソコンなど情報機器が発達し、多くのデータが格段に調べ易くなってきている。かつて多くの時間を費やして調べ得た出典研究も、いまでは膨大なデータを通して瞬時に検索できるのだ。一歩一歩、牛の歩むように蓄積してきた研究も立ちどころにパソコン上に閲覧できる便利な時代である。逆をいうなら、あまり努力をしなくても情報をうまく整理することで容易に論文がまとまるともいえよう。私はパソコンをうまく操作することができない。パソコンやスマホを上手に使いこなせれば、さらなる研究成果を導き出せることだろう。
平成からさらにつぎの時代に向かって仏教や禅の研究はどうあるべきなのか、改めて考えさせられる昨今である。人の頭脳の働き、その柔軟性は重んずるべきであって、長年にわたって培ってきた知識と、最新のデータを兼ね合わせ、両方が相俟って優れた研究となるであろう。今後、仏教や禅に興味を持って入学してくる若い人、さらに進んで研究を志す人に、学ぶことや調べることの面白さを肌で感じていただきたい。
仏教学部: 佐藤 秀孝(禅学、日本禅宗史)