学問Q&A

どうして恋煩いするのでしょうか?

文学部

恋はいつのまにか始まります

『古今集』には恋の歌がたくさん収められていますが、その最初に出てくる和歌が、「ほととぎす 鳴くや五月(さつき)の菖蒲草(あやめぐさ)あやめも知らぬ恋もするかな」です。「あや」は模様、「め」は筋ですが、そこから「あやめ」で、物事の道理やすじみちを言います。ここでは「あやめも知らぬ恋」と言っていますから、もう訳の分からないような恋をしてるんだ! と歌っています。恋をしている喜びにあふれた歌ですね。

陰暦の五月は夏です。恋は春にめばえ、夏に盛りを迎えると平安時代の人びとは感じていました。ホトトギスが鳴き、菖蒲が咲き乱れる夏に高まる恋は、「あやめも知らぬ」もの、理屈や道理などない、だから恋なのだと言っているようです。「恋煩い」はつらいものですね。それは気がついたら、もう恋をしてしまっているからです。理性で抑えたり、調節することができないから苦しいのですが、それこそが恋の喜びでもありますね。

「山桜 霞のまよりほのかにも 見てし人こそ恋しかりけれ」という和歌もあります。霞の向こうに、ほのかに見えた桜のような人に恋をしたようです。これは春の歌ですから、恋の始まりの歌です。「ほのかに」見ただけで、恋に落ちる。恋はいつのまにか始まります。

文学部: 松井 健児(国文学科、中古文学)

おすすめ参考文献

恋する伊勢物語
俵 万智(著)筑摩書房(刊)

『伊勢物語』にはさまざまな恋が登場します。「とりあえず、男がいた」「殺し文句は永遠に」「三年目の悲劇」「告白できずに」「どっちもどっち」「別れたあとで」…この本の小見出しです。

源氏の女君
清水 好子(著)塙書房(刊)

『源氏物語』に登場する女性たち、藤壺、紫の上、浮舟らの生き方が、深い共感と愛情をこめた、細やかな文章で紹介されています。古典を本当に愛する人たちへの、心のこもった贈り物のような一冊です。

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