経済の歴史の画期を見てみたいけど……
歴史には、画期となるさまざまな出来事があります。近現代の日本における経済の歴史に限っても、幕末開港、明治維新、産業革命、戦争と戦後改革、高度経済成長などがすぐに思いつくでしょう。経済史という学問ではそれらを史料やデータをもとに分析しますが、記録に残りにくい事実や社会を取り巻く雰囲気などを知ることは容易ではありません。そんなとき、タイムスリップして直接自分の目で確かめられればいいですね。
もっとも、経済の歴史的画期は必ずしも一夜にしてすべてが変わってしまうような現象ではありません。なぜなら、経済活動の多くは日々繰り返されていくものであり、本質的に連続性を伴っているからです。たとえば産業革命といっても、あるとき突然、いっせいに機械化が進められたわけではなく、産業ごとの違いを含みながら、イギリスでは100年以上、日本でも20年~30年をかけて徐々に達成されたものでした。戦前の日本でたびたび発生していた恐慌も、すぐに大変なことだと気づく人はわずかであり、大抵の人はそれが深刻な状況になってはじめて実感したのです。第二次世界大戦後の高度経済成長の時代においてすら、当時の経営者や官僚たちは、日本の経済力について自信を持てないままでした。
このような経済活動の連続的な性質を考えれば、たとえタイムマシーンでそれぞれの時代に行けたとしても、経済史上の画期を即座に観察できる可能性は低いでしょう。しかしそのことは、誰の目にも見える形ではないけれども着実に進行する歴史的な変化というものが存在することを示唆しています。いまを生きている私たちのまわりでも、後世の人々からみれば画期とされるような大きな変化が静かに進んでいるかもしれないし、そのようなことに気づける明敏な感性を早いうちから磨いておきたいものです。
経済学部: 渡邉恵一(日本経済史)