仏教学部
まっすぐに問いかけること
この一両年、マスクをしたままで人と会って話をすることは日常的になりました。口元の見えない目線だけでは相手の表情を読みとれず、どんな人かわからないままで、自分の考えや気持ちを伝えることは、とても不安でしょう。
そもそも人の心を掴むために必要なことは、どういうことでしょうか。それは、相手のことをよく知り、その心情を思いはかり、その人の心に届くように、自分の考えや思いを的確に伝えようとする、その強い気持ちです。
禅には「正問正答」という言葉があります(『洞山録』)。「正問」とは、相手に向かって自分が本当に聞きたいことを、そのままに示す率直な問いです。その人にこそ伝えたい自分の考えや思いを、かくさず、かざらず、ごまかさず、まっすぐに問いかけてこそ、相手はその問いに共鳴するように、まっすぐな答え(「正答」)をするものだ、ということです。
マスク越しの表情ばかりでなく、相手のことをどれほど深く、知り、感じ、考えられるか。そのことに徹底して努め、自分の「正問」を信じ、勇気をもってなげかける。そうすればきっと心と心が通じあうような「正答」を受け取ることができるでしょう。人の心を掴むとはそういう経験です。
仏教学部: 松田陽志